第16話シャワーから出ると私は体を丁寧に拭いて新しい下着を身につけて気持ちを昂らせていた。沢田が来る・・私に会いにくる・・・沢田が好きな少しケバめの派手なメイクをしていると私の携帯がなった。ディスプレイには『お凛』と書いてあったので私は急いで出た。せっかく久しぶりに沢田が私に会いに来てくれるのにいつものようにお凛にご飯を作りに来られては困る。『もしもし?』私はわざと明るく出てもう元気になったから出勤前に来てくれなくても大丈夫、そう伝えようと思っているとお凛が先に謝ってきた。『姐さん、ごめんなさい。今日そっちに行けない。私、頑張ってみようと思うの。島田と話し合って見る。やっぱり私、アイツが好きだから。お店に行く前に島田のアパートに行ってくるからごめんね、姐さん。後で、報告するわ』そう言うので私もその方が都合がいいと思い『頑張ってね』と適当に応援して電話を切った。 これで、誰にも邪魔されずに私は沢田と会うことができる。二人だけの甘い時間。私は酒のつまみになりそうな簡単な料理も作って沢田を待つことにした。いつもなら沢田は8時に仕事が終わるはずなのでまっすぐアパートに向かえば8時半には来れるはずなのだがその夜はどういう訳か10時を過ぎ頃に沢田が部屋にやって来た。『遅かったじゃない』私はそう言って沢田の背広を脱がせた。『急な仕事で、ごめん』と沢田は謝った。私は沢田に言いたいことがたくさんあった。この会えなかった数日間に私がどれほど不安で不安でたまらなかったのか客に刺されてどれほど怖い思いをしたのか沢田はそんな私の気持ちを知っているのか聞きたくて聞きたくて仕方がなかった。しかし、沢田の背広をハンガーにかけようとして私は背広から微かな香水の匂いがすることに気がついた。この匂いは間違いなくプワゾンの香りだった。お凛がいつもつけている香水の匂いだった。 どうして?私の頭の中に一つの疑問が浮上した。『シャワー借りていいかな?汗かいちゃったから。そしたらゆっくり話そう』沢田はそう言って私にキスをして浴室へと向かった。私はキスをしながら沢田の体の匂いを嗅ぎ確かに体からもプワゾンの香りがすることを確かめていた。何故?何故、沢田の体からお凛の香水の匂いが??どうして沢田は今夜に限ってこんなに遅く来たの?どうしてお凛は今夜に限って料理を作りに行けないと電話してきたの?どうして、沢田は私の話も聞かずに今、シャワーを浴びたがるの?どうして?どうして?まさか・・・まさか!!!!!沢田とお凛がで き て い る ? ? ?だからお凛は急に私に優しく接するようになった?優しくして本当は影で私のことを笑いものにしてたってことなの?二人して私を騙しているの??だとしたら許せない。お凛、許さないわ!!!!!私は混乱していた。私は二人を疑いはじめていた。 そして沢田の妻、ミネコが言った言葉を私は思い出していた。主人ってそういう人なの。水商売の女が好きなのよ。別にあなたじゃなくてもいいの。ホステスなら誰でもよかった。嘘でしょ???話って何?シャワーが終わったら何を話そうって言うの?嫌よ、絶対に嫌。私・・・そんなのイヤ!!気がつくと私は沢田が脱いだ服から沢田の携帯を取り出していた。調べなきゃ・・・お凛と関係してるかどうか確かめなきゃ・・・私は震える手で沢田の携帯を勝手に調べはじめた。沢田の携帯を開くとすぐに1通のメールを受信した。差出人は『ユカリ』という女で件名に『今夜はありがとう』と書いてあるのが見えた。ユカリ?誰?今夜はありがとう?どういうこと?私は受信したばかりの沢田のメールを勝手に読むことにした。 from ユカリSub 今夜はありがとう沢田っち今夜はお店に来てユカリを指名しくれてありがとう☆超嬉しかったぁ☆この前、沢田っちがくれたプワゾンの香水も気に入ってるんだよ。ユカリ、沢田っち好みの女になるからまたデートにも誘ってね☆おやすみなさい。ユカリお凛じゃない・・・な・・・何なの???このユカリって女!!!ホステス?キャバクラ嬢?沢田は私の家に来る前にこんな女の店で飲んでいたの?プワゾン?どうして沢田がこの女にプワゾンを???私は他のメールもチェックした。『アユミ』『ユリエ』ユカリの他にも沢田がホステスみたいな女にプワゾンの香水をプレゼントしている風なメールが残されていた。 ま・・・まさか・・・アリバイ工作?私は思い出していた。沢田が『パンパン』に最後に来た夜のこと。奥さんが香水のことを勘違いしているという話を沢田が興味深そうに聞いていたこと。妻のミネコは私がプワゾンを使っていると疑っている。もう私との関係はとっくにバレているのだから沢田は他の女との浮気がバレないようにプワゾンの香水でカモフラージュしてミネコの嫉妬を全て私に向けさせようとしている?でも・・・そんなことができるような人には思えない。だって10年も信じ続けてきたんだもの。じゃあ、このメールはどう説明すればいい?そうよ・・・他の女に手を出したとしてもこれはきっと出来心で私が愛人で1番のポジションにいるに決まってる。私が一番の愛人。あぁ・・もう何が本当なのか分からない・・・こんなときまで冷静に考えてる場合じゃない・・もう白黒はっきりさせなきゃ私が壊れてしまいそう。シャワーから出てきたら確かめなければ・・・沢田に確かめなければ・・・私が混乱していると突然、ドンドンドンと誰かが私の部屋をノックした。 『神野さん。宅配便です』こんな夜中に宅配便?私は警戒した。だってそれは聞いたことがる女の声だったから・・・私は恐る恐る玄関まで行きのぞき穴から外の様子を伺った。外には肩パットが入った豹柄の派手なスーツを着た沢田の妻、ミネコが立っていた。やっぱりあの女だ!!!私は心臓が止まるかと思った。ドンドンドンミネコがドアを叩く。『いるんでしょ?主人がいるんでしょ?分かってるのよ?入って行くところを見たのよ。ずっとアパートの前で待ち伏せして見てたのよ!!開けなさいよ、いるのは分かってるんだから開けなさいよ!!!!!』ミネコは激しくドアを叩きながらそう叫んだ。沢田はまだシャワーを浴びている。どうしよう。このまま居留守を使おうか・・・そう思った時だった。ガガガ・・鍵穴に何かが刺さるような音がしてカチャと鍵が開いた音がした。ドアノブがゆっくりと動きそしてドアが開いた。『こーんーばーんーわー』そう言ってニヤリと笑ったミネコは部屋の中へと入ってきた。 『きゃあああまるで幽霊のように現れたミネコの姿に私は驚いて悲鳴をあげた。どうしてミネコが鍵を開けられるの?私は内側からチェーンをかけていなかったことを心底後悔した。ミネコの手には鍵が握られていてカギには鳩の死骸のような物体がくくりつけられていた。『あなたに返したはずなのに主人ったらまた鳩のキーホルダーなんて持って帰ってきて。しかも、見覚えのないカギがついてるじゃないの。絶対にあなたの部屋のカギだって思ったから合鍵をこっそり作ってみたの。やっぱり大正解ね。これ、あなたの部屋の鍵じゃない。忌々しいことしてくれるわね、薄汚いこそ泥の分際で』ミネコは気味悪く笑いながらそう言った。『鳩のキーホルダーなんて趣味が悪いから代わりに鳩の剥製をつけてあげたわよ!!!!!』そう言ってミネコは私に不気味な鳩の剥製がついた私の部屋のカギを放り投げた。『キャッ私は咄嗟によけると鳩の剥製がドサリと音を立てて床に落ちた。見れば見るほど気持ちの悪い鳩の剥製で私は背筋がゾッと凍りそうになった。ミネコは玄関に脱ぎ捨てられた靴に視線を向けていた。『これ、主人の靴よ?私が今朝、丁寧に丁寧に愛情を込めて磨いたのよ。あなたはそんなことし続きをみる
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