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幸福な地獄2

第2話母が入院している間は家事の大半を私がしなければならなかった。母が家にいない間も毎晩、兄は私の部屋で私と眠っていたし父は仕事が忙しいと朝は早くに出かけ夜は遅く帰ってきていた。私は父や兄のために食事の支度をし、掃除や洗濯などに追われそして学校へ行き帰宅すればまた家事をした。夜になれば兄が布団の中でじっとしていたせいで寝不足になりそんな不規則な生活を続けているうちに次第に受験勉強が全く手につかなくなっていた。12月になると入院していた母が家に戻ってきた。母が戻ってくると父は人が変わったように毎晩、家に早く帰ってきた。何も知らない兄はただ、母が帰ってきたことをバカみたいに喜んでいた。母は父や兄の前では安心したような幸せな顔をしていた。きっと、父が母に浮気相手と別れたとでも言ったに違いない。まるで何もなかったように幸せな家族の生活がまた始まった。私は気味が悪かった。みんなが幸せな家族を演じてるみたいで気味が悪かった。父はきっとまだ浮気相手と関係を続けていたに違いないし母だってそう簡単に父の言葉を信じたわけではないだろうしそれにそんな家族の秘密に何も気づいてない鈍感な兄の存在も私にはひどく滑稽に見えた。そして、退院後も母は私に対して氷のようにつめたい目で私を威圧していた。(私のしんちゃんに手を出したら許さない)そう言ってるような冷たい冷たい目だった。 母が帰ってきてからも兄の態度は何も変わらなかった。夜中になるとこっそりと私の部屋に来て私の布団の中に入ってきた。入ってくるだけで何もしない兄。いつか、寝ている間に兄に犯されるのではないかと思うと私は怖くて兄に背を向けて朝までずっと眠れない日々が続いた。ある夜のこと、私はいつものように兄に背を向けるようにして寝ているとふと、部屋のドアが少しだけ開いていることに気がついた。兄が部屋に入ってくるときに閉め忘れたのだろうか?そう思って私はハッとした。暗闇の中でドアの下の方に丸い2つの玉が縦に並んで光っているのが見えた。それは目だった。間違いなく目だった。私は、きっと母が廊下で横向きに寝そべって私の部屋をじっと覗いているんだと確信した。2つの玉は時々消えては再び現れる。母がまばたきをしたに違いなかった。私はぞっとした。布団の中で眠る兄と私を母が廊下から監視していると思うと怖くてたまらなかった。私は布団の中に潜って目を閉じた。吐き気がした。嗚咽がもれそうになるのを必死で我慢した。いっそこのまま母が見ている前で兄が私を犯してくれれば全てがぶち壊れてラクになるのにと、私は本気で思った。でも、兄は私を犯すどころかキスさえもしてこなかった。毎晩、私の布団の中で眠るだけ。そして母もまた、毎晩私の部屋をじっと覗いているだけだった。 母が退院して再び訪れた幸せな生活。例えそれが父や母の演技だったとしても私が我慢さえすれば表面上、家族は幸せでいられる。私が兄のことも母のことも我慢すればいいだけのこと。私はそう思い込むしか他に道は残されていないような気がした。今度は私がノイローゼになりそうだった。私はぽっかりと開いた心の隙間を埋めるかのように食べて食べて食べまくった。胃の中が常に食べ物で満たされているのではないかと思うほど私は食べ続けた。 冬休みがきて正月を迎えそして始業式が始まる頃には私の体重は8キロも増えて51キロになっていた。にきびも増えて肌が荒れた。私は髪を切った。ばっさりと切った。気分が変わると思った。体重が増えて顔が丸くなり髪の毛を切って男の子みたいな姿になると星野優実というアイドルとは似ても似付かなくなっていた。私は少しだけ醜くなった自分の顔が何故か少しだけ好きになった。そして不思議なことに太った私の姿を見て兄はそれ以来、私の布団はおろか私の部屋にすら寄り付かなくなった。私は心底ほっとした。しかし兄の呪縛から解放されたものの私の心は壊れたままでなんだか何もする気になれなかった。冬休みが終わり始業式の日の朝。登校途中の私は突然目の前に現れたマンションに惹かれた。そして足が勝手にマンション屋上へ向かっていた。さすがに屋上は立ち入り禁止になっていたが12階建てマンションの12階から見る景色は絶景だった。街も人も車も木も全部ちっぽけに見えた。しかし、不意に脳裏に(ここから飛び降りたら・・・)という考えが浮かび足が震えた。私にはそんな勇気はなかった。『ばっかみたい』私はそう呟いて渋々と重い足取りで学校へと向うことにした。久しぶりに登校するとクラスメイトたちは私の変貌ぶりに驚愕していた。自慢に聞こえるかもしれないが私はクラスでも1、2を争う美少女だった・・・とは言わないが星野優実というアイドルに顔が似ていたせいでクラスの男子からは多少憧れの眼差しで見られていたようなところがあった。しかし、始業式の日に太ってショートカットにした私を見た時の男子達の失望した様子は目に見えて分かった。そして私の異変に気づいたのはクラスの男子だけではなかった。担任の小山順平先生もまた私の異変に気づいていた。放課後、私は職員室に呼ばれた。『神野・・・どうした?最近成績が下がってるぞ?このままじゃ、志望校には合格できないぞ』そんなことを言われたような気がする。私は兄や母のせいで勉強なんてどうでもよくなっていてとにかく、今この瞬間が不安で不安で受験とか高校とかそんな先の未来のことが考えられなくなっていた。 ふと、小山先生の左手の薬指に光るリングが目に入った。小山先生は32歳で新婚ほやほやだった。顔は可もなく不可もなく普通の顔だったが幸せそうな顔をしていた。まだ私たちの3年C組を受け持ったばかりの頃小山先生が結婚することになり結婚式の余興としてクラス全員続きをみる

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