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Channel: ゴマブッ子オフィシャルブログ「あの女」Powered by Ameba
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幸福な地獄23

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第23話私は下ろしたばかりの50万円を銀行の封筒に入れ誰にも気づかれないよう職場で悟に手渡した。これで悟が私のモノになる。そう思えば50万円くらい大した額じゃなかった。私は自分で切り開いた運命に武者震いをしていた。その日の夜は本当に眠れなかった。悟が年上の彼女である太田安子と会っていると思うと不安と緊張で胸が苦しくなった。悟はうまく彼女別れることが出来るだろうか。借りていた50万をきっちりと返して彼女をフッてくれるだろうか。もし・・・彼女が別れたくないと駄々をこねて関係の修復を迫ったり悟のことを肉体で誘惑したりしたら悟は心変わりしてしまうのではないだろうか・・・いや・・・信じよう。悟の言葉を信じよう。私と結婚を前提に付き合いたいと言ってくれた悟の言葉を信じよう。私は枕を抱きしめたまま眠れない夜を過ごした。明け方になって悟から電話があった。『起こしちゃった?』悟は優しい声でそう言った。『ううん・・・ずっと起きて待っていた。そう言おうと思ったが・・・本当はそう言ったかったが我慢して『今、起きたところ・・・と私は言った。『今日、少し早く出てこれる?きちんと会って話をしたいから』悟はそう言ったので私は『うん』とだけ答えて電話を切った。物分りのいい大人の女を演じて本当に聞きたかったことはぐっと我慢した。別れたの?別れてないの?お金は渡したの?あの女はお金を受け取ったの?聞きたいことだらけで頭が変になりそうだった。私はシャワーを浴びて素早くメイクをするといつもより早い電車に乗って職場へと向かった。悟は先に来て私のことを待っていてくれた。そして一言『別れてきた』とだけ言って私に温かい缶コーヒーを手渡してくれた。私は嬉しくて嬉しくて悟よりも年上なのに私の方が年上なのにそんなことも忘れて子供のように悟の胸で泣いた。そんなどうしようもないくらい不安で子供だった私の頭を悟は優しく優しく撫でてくれた。 それから私たちは人目を忍んでデートを繰り返した。悟は通常の仕事と同時進行で自ら事業をはじめるための準備を進めていたのので週に2回もデートができればいい方だったが私はそれでも満足だった。2回目のデートでキスをして3回目のデートで私たちははじめて結ばれた。悟の肉体は想像以上に逞しくて温かくて今までずっと壊れそうなくらいボロボロだった私のことを優しく優しく包んでくれた。私は悟に抱かれてもっともっと悟のことが好きになった。もう一生悟の傍から離れたくないと思った。私は何度も何度も10回も100回も悟の腕の中でそして耳元で『好き』と『愛してる』と呟きそしてその度に悟は私の唇に熱いキスをくれた。全てが順調のはずだった。ところが・・・そんな私を嘲笑うかのように予想もしなかった事件が起きた。ある日、山村優子が突然会社を辞めることになった。田舎に住んでいる母親が体調を崩して実家に帰ることになったのだという。あまりにも急なことで送別会も何もできなかった。山村優子がデスクを片付けているとユキが山村優子に向かって『これでライバルが一人減ったわね』と言い、手を叩いて喜んでいたが最後は山村優子と手をとりあい『あんたのこと、大嫌いだったけど本当は誰よりもあんたの才能を羨ましく思ってた』『本当はずっと仲良くなりたいってそう思ってたのに素直になれなくてごめんね』と号泣しながらお互いを尊敬しあい認め合って最後の時を迎えていた。私はそんな二人の姿を見て思わずもらい泣きしそうになった。山村優子と過ごしたのは本当に短い期間だったけどこの職場では色々なことがあった。私は山村優子の淋しそうな姿を見ながらも自分の幸せを噛みしめていた。『あっ、そうだ。幸子・・・デスクを整理していた山村優子が突然、私を呼んだ。『これ、見て欲しいの』山村優子はキーボードをパタパタと叩いて悟のホームページを開いた。 そうだ・・・悟はホームページを持っていたんだった。もしかして・・・私とのことが日記に書かれていて山村優子がそれを読んでしまったのではないかと思い私は一瞬、ヒヤリとした。しかし、山村優子が開いた悟の最新日記のページにはこうつづられていた。目をつけていた渋谷の物件が他の人の手に渡るかもしれない。不動産屋に今週中に契約金を払えばなんとかなると言われたがあと1000万、資金が足りない。やっぱり諦めるしかないのか・・・私はそれを読んで頭の中が真っ白になった。どうして?どうして悟は私に相談してくれないのだろうか?私は悟の彼女なのに・・・私のことをまだ信用していないのだろうか?それとも私に迷惑をかけないために?そんなの水臭いじゃない。だって私たちは将来を誓った関係なのに。結婚を前提にお付き合いをしているはずなのに・・・まさか・・・悟はまだあの女と別れてないの?別れたなんて言って本当は私とあの女を両天秤にかけているの?最近、忙しいなんて嘘なの?本当はあの女と会ってるから私とはあまり会ってくれないの?分からない・・・分からない・・・でも・・・悟の心を私の物にする方法はただ一つ・・・私が1000万用意すれば・・・ 『ねぇ、幸子・・・大丈夫?私が考え事をしていると山村優子が心配そうな顔をして言った。『あっ、うん大丈夫』私は取り乱したい心を抑えつけてそう返事をした。『1000万って大金よね。うん、大金なのよ』山村優子はそう言って目を潤ませながら会社から去っていった。私は急いで銀行に行った。ホステス時代に貯めた貯金が500万あった。預金を全額引き出し更に私はホステス時代のコネを駆使して知人やサラ金などからなんとか残りの500万も都合をつけた。とにかく1000万必要なのだ。悟の夢を叶えるために私たちの夢を叶える為に悟の心を繋ぎとめるために悟の心を私の物にするために・・・きっと悟は喜んでくれるだろう。このお金で悟は事業をはじめられる。悟の夢だったIT起業を興すことができる。私はその夜、悟を呼び出して何も言わずに1000万を渡した。悟は何故私が悟の金銭的な事情を知っているのかとびっくりしていたが『ありがとう、本当にありがとう』と言って喜んでくれた。私は何よりも悟の笑顔が嬉しかった。『借用書を書くよ』悟はそう言ったが私は信用してるからそんなものは必要ない。と、断った。そして悟は『借用書代わりという訳じゃないけど』と言って私にプロポーズをした。『一生守り続けたい』そう悟は言ってくれた。驚いた。本当にびっくりした。誰かが結婚はタイミングだとか勢いだとか言っていたけれどこれがそうなのかと思うとなんだか嬉しくてにやけてしまいそうだった。私は悟にプロポーズされてももう泣かなかった。やっとこの日がきた。ただただそう思っていた。女としての幸せを私も手に入れることができる。悟と生涯を共にできる。その喜びだけが私の支えであり生きがいになっていた。悟は私の渡したお金を手に不動産屋に行くと言った。そして気が早い悟は私と教会の下見をしたいと言って明日の土曜日に広尾の教会で待ち合わせることにした。教会での結婚式。想像するだけで幸せだった。そして土曜日の午後、私は悟と待ち合わせた教会へ向かった。悟と式を挙げるかもしれない教会の下見。そう思うと胸が弾んだ。私は教会のドアを開けて聖堂に入ると悟の姿はまだなかった。私は椅子に座り聖堂を見上げた。ステンドグラスが美しくて私たちの式には勿体無いくらいでなんだか胸が熱くなった。『はぁ・・・』幸せのため息が漏れると聖堂の奥の方に人影が見えた。よく見るとその人物はウェディングドレスを着ているようだった。『誰?』私が声をかけるとウェディングドレスと着たその人物が振り返った。『ゆ・・・優子・・・私は驚いて大声で名前を呼んだ。ウェディングドレス姿の女は確かに、山村優子だった。『さ・・幸子・・・どうしてここに?』山村優子は驚いた顔をしてそう言った。『こっち続きをみる

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